神に愛されたぼくらの片割れ
――神隠しいっちネタ(途中) 俺には兄弟が居た。いや、居る。俺を含めて六人兄弟、正しくは六つ子。世にも珍しい一卵性の六つ子であり、地元でも昔から有名で、よく新聞やテレビなんかに取り上げられたものだ。それも今となっては落ち着きを取り戻し――いや、とある事件から、俺たちはぱったりとメディアへの露出を避けるようになった。
俺は六つ子の中の一人である。
六つ子。六人兄弟『だった』。
とある事件――隠してもどうせ当時話題になったから、調べればすぐ見つかるだろう。その事件は今から12年の時を遡り、俺らが10歳の時の話だ。
四番目の兄弟――松野一松が、忽然と姿を消した。
あれは、そう。とても強い日差しが降り注ぐ夏休みのある一日のことだった。
俺たちはいつものようにイタズラをして、皆で遊んではしゃいで、夏休みを謳歌していた。おそ松とチョロ松はさっさと山にクワガタを獲りに行ったし、俺とトド松は網を持ってそれに続き、一松と十四松は水筒を持ち帽子をかぶって、ゆっくりとついてきた。
そんないつも通りの一日だった。いつも通りの一日になる筈だった。
夕方、まだ日は落ちていないもののおそ松の「お腹空いたな~!そろそろ帰ろうぜ!」という言葉に同意し、帰ることになったその時。キョロキョロと辺りを見回した十四松がぽつりと呟いた。
――ねえ、一松がいないよ。
なんだどうした迷子か~!?、と笑って皆で探したが見つからず、お腹は空いたし日は落ちて暗闇が周囲を取り囲み、俺らは不安から泣いた。心配した両親が俺たちを探しに来て、そこからいろいろあり警察や住民の皆も巻き込んでの捜索が始まった。
何時間、何日にも及ぶ捜索が続いても一松は見つからなかった。唯一見つかったのは、一松の水筒と帽子だけ。それ以外の痕跡は全く見つからなかった。
――神隠しにあったんじゃない?
俺らの誰かがそう呟く。
昔からこの山には神様が住んでいて、神様に気に入られた子は連れて行かれてしまう、という伝説が残っていた。子供が夜森で遊んだりする危険から守るための言い伝えだろう、と今ならわかるが、当時の俺たちはそれを信じた。
――そうだ、きっとそうだよ。
――あいつ…一松のこと気に入って、連れてっちゃったんだよ。
――どうしたら戻してくれるかな。
――神様から嫌われたらいいんじゃない? 僕はあいつで僕たちは僕、でしょ? 僕たちが悪い子だって知ったら、きっと一松だって悪い子だってわかって戻してくれるよ。
――それがいいのかな。だって六つ子だもんね。
――それがいいのかも。だって六つ子だしね。
そうして俺たちが結論づけた次の日から、またイタズラを再開した。
大人たちは皆俺たちを怒ったが、ふっと悲しそうな笑顔を見せることが多くなった。俺たちはそれに気付かないフリをして、毎日イタズラをした。
中学に入ってもそれは続いて、イタズラから喧嘩へと変化していった。毎日毎日悪いことをしているのに戻してくれない神様に苛々していて、それのストレス発散になっていたのかもしれない。
喧嘩に明け暮れる毎日を過ごしていた俺たちは、進学が近づいてきたある日先生に呼び出され、静かな声で告げられた。
――そろそろ現実を見ないと、次に進めないよ。
…それから俺たちは無事高校に入学して。おそ松は変わらない無邪気さからクラスのリーダー的存在に。チョロ松は真面目に授業を聞き出して。十四松は体力を付けると野球部に入り。トド松は友好関係を広げ毎日遊ぶようになった。
皆につられるようにして、俺も演劇部に入部し部活に精を出すようになった。
――俺たち、間違ってたのかなぁ。
あれはいつの日だったか――夕日が綺麗で、とても儚げだったことは覚えている。
俺たちの一人称はいつの間にか「俺」になっていて、身長も伸び、声も声変わりが起きて各自個性が出てきた。
学ランを着崩し、窓の縁に腰をかけ、夕日を背後におそ松はゆったりと吐き出すように呟いたのだ。
――現実見ねえと、いけねえのかなぁ。
高校に入って地元以外の人間と付き合うようになってから、俺たちは「六つ子」じゃなく「五つ子」と言われることが多くなった。同じ顔が五つ――それだけでも物凄く目立つことだろう。でも、あくまでも俺たちは六つ子なのだ。
しかし、「五つ子」と思われても不思議ではないほどに、俺たちも周りも変わった。
あの頃よく行ってた駄菓子屋さんは駐車場になってるし、田んぼは道幅の工事で道路になった。
――いつまでも、あの頃に縛られてたらいけないのかもしんねえなぁ。
そう続けたおそ松の顔は、あの頃に見た大人たちと同じ表情をしていた。
...16/04/21