第一章 まずは自己紹介から

11  やはり、聞かなければいけない。

 そう思ったのは、ちょっと難しそうな顔をして書類を睨んでいる伯父さんを見かけたからだ。
 あの祖母との二度目の顔合わせから約一ヶ月が過ぎた。
 『レン・ヴィオク』の存続の件や、私が男になることによって生じるらしい問題を聞かなければと思いつつ、聞いたところで何か私にできるのか、ただただまた迷惑をかけてしまうだけになるのではないかと考えていたらこんなにも時間が経ってしまった。

 チキンだ? なんとでも言え。

 祖母は何故かとても静かで、あれから一度もこちらに来ていなかった。来ないなら来ないで、何を企んでいるのかと戦々恐々とする。私を諦めた……ってわけではないと思うけど、もし諦めてくれたのなら問題があるかもしれない男になるよりは女になるのだけれど。

 あの時。
 一回目の祖母の突撃の際に、伯父は私を抱きしめて言った。

──例え女になっても……男になっても、私を守るから、と。

 あの時は何の疑問も感じなかったが、改めて考えると『男になっても』という言葉はおかしい。
 祖母の目的は、私が女になって王子と婚姻し、ヴィオクの──自分の政治的立ち位置を上げようとするものだった。ならば、『女になっても守る』という言葉だけでよかったのではないだろうか?
 いや、男になったところで『王子のご学友』的立ち位置や『相方』『親友』『相棒』など、まあ言葉は何であれ傍に立つことはできる。だから男になっても守るという言葉も間違いではないが、まあ結びつきの強さでは婚姻が一番だろう。
 結びつきの強さはどうであれ、男女に違いはない。むしろ一人しか選ばれない(正妃とは別に妾とかの制度があるなら問題はないかもだけど)女よりかは、王子の手となり足となれる男の方が有利というか、選ばれる可能性が高いのではないだろうか?
 しかし祖母は女になること以外は認めていなかったし、その場にいた伯父もそれはわかった筈だ。ならどうして『男になっても』という言葉を続けたのか──……。

──男になったら、問題があるからだ。

 祖母の話を全て信じたわけではない。しかし、私が男になることで何か問題が生じるのも恐らく事実だろう。
 果たして祖母は、その問題を退けるために私を女にと強要したのだろうか。それとも本当に女になって王子と婚姻してほしかったのか。それまで後者の理由だけだろうと思っていたのに自信がもてなくなる。
 そうなると女になった方がいいのかもしれないが、祖母の駒にはなりたくない。王子に好かれないようにわざと堕落するのも手だが、伯父さんと伯母さんがつけてくれた家庭教師に迷惑がかかるかもしれない。それでなくとも、座学はガヴァルとガヴィーと一緒じゃなく、わざわざ私のために新しく雇ってくれたのだ。お世話になっている手前、手を抜くことはできない。
 王子に嫌われるようにするのも迷惑がかかるかもしれないし、かと言って当たり障りなく接すれば選ばれる可能性がある。

 『ガル・ヴィオク』の女は、ガヴィーが女になるのであれば二人いる。年上はもしかしたら対象外かもしれないので一人……ガヴィーだけ。
 『ガル』と『レン』だと『ガル』の方が上だから、政治的関係から、普通に考えれば選ばれるのなら『ガル』であるガヴィーの方が可能性が高いのだが──祖母には何かまた別の思惑があるのだろうか。いや、祖母はガヴァルとガヴィーの存在をちゃんとは知らない筈だから、もしかしたら私が女になってもガヴィーが女になるのなら、駒になるのはガヴィーかもしれない。

 なら、女になってもいいのかもしれない──いや、やっぱりガヴィーが駒になるのは駄目だ。

 中身が本当の子供じゃない私だから、こうしていろいろ考えて行動できているのだ。純粋な子供であるガヴィーが祖母の思惑通りに動くことになって掴んだ幸せは、果たして幸せと言えるのだろうか。
 駒にならないように動くことは難しいだろう。きっと祖母はガヴィーと顔をあわせる時にあの“いい祖母”のフリをする。きっとガヴィーは騙されて、祖母のことを好きになってしまうだろう。そうすればあとはもう簡単だ。子供は好きな人に褒められたいし認められたいから、言う通りに行動するだろう。

 私が女になって、ガヴィーを祖母から守りつつ行動するのが一番いいかもしれない。ああでも、やっぱり男にもなってみたいんだよなぁ。

 ざっくりと自分の今後が決まりほっとすると同時に、またこれによる不利益に考えを巡らせていると、頭が痛くなってきたので一度思考を中断した。
 あの熱のあと一週間は何もなかったのだが、暫くすると毎夜熱が出るようになった。昼間は何ともないのでいいのだが、夜熱が出ると朝起きた時にシーツがでろでろで気持ち悪いので嫌になる。
 最初は知恵熱かと思ったが、朝になるとすっかり落ち着いているので原因不明である。この世界特有の病気か? と思ったが、まあ夜に熱が出るだけで普通に動けているし大丈夫だろう。
 熱というか、こう、心臓が痛いというか、熱いのだ。え、わからない? 語彙力の欠如? うるせえ。これ以上どう説明すればいいのかわからないんだよ。
 血が逆流するような痛みは本物でないというか、多分気のせいなのだろうがとても熱く感じる。ちゃんと眠れているので、魔されたり眠りが浅いわけではないようだが──やはりこの世界の特有の病気なのだろうか。
 少し待てば頭痛は治まったので、そっと息をつく。今日は5日。休日だ。
 外はすっかり銀世界で、積もった雪は主要道路以外は自然のままになっている。最初ははしゃいでいたガヴァルとガヴィーも、飽きたのかあまり外に出なくなった。庭でやっていた稽古は、無駄に広いダンスホールでやっている。
 主要道路の雪かきは魔法でやっているようで、よく歩くところやバラ園に雪はない。少し積もっても、気付いたら地面の色が見えている。
 魔法はとても便利だが、出来ないことも多いようだ。本格的な勉強は5歳になってからで、せめて何か情報だけでも!、と聞き耳をたてても魔法についての話題は皆無と言っていい。なのでまだ魔法についてはわからないことだらけだ。いや、この世界もまだわからないことだらけなんだろうが。
 早く魔法が使えるようになりたいし、魔法の勉強を始めたい。前世の影響か『魔法』というものにとても強い興味をもっている。やっぱ憧れだよね! 私はちゃんと魔法を使えるんだろうか? 前世流行ってたラノベでは、転生した主人公はチートか一切魔法を使えないかの完全ぶっちぎりの二択しかなかったように思うけど、私はどちらに該当するのだろうか。チートまでは望まなくとも、魔力皆無は嫌だ。せっかく魔法のある世界に生まれたみたいなのだから、魔法使ってみたい。

 ぽんぽんと飛んでいく思考のまま、私は伯父の書斎へと向かう。
 5日は休日で、伯父も伯母もこの日は二人そろって休み、夫婦二人で街に出掛けたり(デートですね、まだまだ熱々なようでなによりです)ガヴァルやガヴィーの相手をしたりしている(私はそれに時々お邪魔して、双子を見守ったり遊んだりしている)。
 しかし、ここ最近伯父は休んでいない。何が原因でそんなに忙しそうなのかはわからないが、私のせいじゃないだろうか。勿論『ガル』である伯父は広大な領地を治めているだろうし、そういう方面で問題が起こったのかもしれない。だが、どうしても私に関する問題で頭を悩ましているのではないかと思ってしまう。
 これが気のせいだったらいいのだが──……やはり今までのことを思い返すと鎌首をもたげる。

 伯父の書斎の前まで来ると、書斎前に佇んでいた使用人──警備員かな?──が私の代わりに扉を叩いてくれ、入室が可能かどうかの確認をとってくれる。
 4歳になってから家の中ならわりと自由に移動してきたが、流石に伯父の書斎に自由に入るなんてことはできない。前回──祖母への対策を練るために相談をしに行ったあの時が、実は初めての入室だった。
 確認がとれたようで、ドアマンがこちらを振り返って頷いてくれる。それに頷き返し、「失礼します」と中に声をかけた。

「やあ、レヴィーレ。どうしたんだい?」

 柔らかく目を細め、伯父は笑う。その顔はいつもより若干疲れているようだった。
 私はそっと深呼吸をする。

「ラハト伯父さん。──聞きたいことがあります」
「? 何かな?」

 私にソファを勧めながらも、本人は書斎机の前から動かず、手には書類を持っている。本当に忙しいのだろう。
 私は首を振ってソファを断る。これから聞く内容を思えば、ゆっくり座って話すなんてことはできそうもない。あんまり長居する予定もないしね。

「私が男と成れば、“ガル・ヴィオク家”のご迷惑になると聞いたのですが──それは本当でしょうか?」
「──……誰に聞いたの?」

 くしゃりと、伯父の手元の書類に皺が寄る。
 伯父は柔らかい表情のままだが、手には戸惑いと苛立ちが表れている。私に向かってではなく、そのことを伝えた誰かに向けて怒りを表しているのだろう。ということは、“本当”だ。

「伯父さんは私を引き取ってくださる時に仰ってましたよね。『レン・ヴィオクのままで、大きくなったらこの家に帰ってきてもいい』と。でも、没落した家名の保存期間は一年と伺いました。そしてその一年後、私はまだ4歳。私はまだ神の子です。5歳になって私の存在を知らしめても、家名は既にない。そうなると、──私はもうあの家には戻れないのでは? それとも、あの家はガル・ヴィオク家の管理下になり、私はその家の管理人として過ごすということになるのでしょうか?」

 じっと伯父の神秘的な瞳を見つめながら、問いを連ねる。こんなにも長文を話したのは初めてかもしれない。
 伯父の手が震えている。力が入りすぎているのだ。その手が示しているのは苛立ちが焦りか──はたまた、私を引き取った後悔か。
 思い付きで言ってみたが、『ガル・ヴィオクの管理下になったあの家の管理人になる』というのはあり得る話だと思う。むしろ、一年で抹消する家名の家に戻るのならばその方法しかないと思うのだ。
 そうすれば、『レン・ヴィオク』のまま──没落した家名のまま、存在するけど存在しない立場のままで管理人となれることだろう。『本家』に隠された『潰えた分家』の一人として。

「……大分、いろいろなことを知っているんだね……誰から聞いたのか、教えてくれるかな」
「……祖母から聞きました」
「…………そうか」

 祖母とのお茶会の時、その場にはここの使用人も控えていたはずだ。でも伯父に話の内容が伝わっていないということは、祖母が何かしたのだろうか? それとも、ここの使用人はどんな話でも機密を守る素晴らしい使用人だったということだろうか。

「……先に一つ、聞かせてもらえるかな」
「? はい」
「……前に、レヴィーレの計画を聞いたと思うけれど……アレはまだ有効なのかい?」
「……そうですね。むしろ、聞いた話が本当でしたら、実行したいと思っています」

 いろいろ今後のことを考えたけど、全てをひっくるめて──どんなことがあったとしても、当初の予定だと対応できる。最悪の場合を想定した予定だったが、考えておいてよかったと昔の自分を褒めた。

「なら……黙っていても仕方がない、か」

 ふう、と天井を見上げた伯父さんは、何かを覚悟したかのようだった。
 顔を戻し、私を見つめる伯父はちょっと困ったような顔で笑う。

「本当に、君は──オストに似ているね」
「父さんですか?」
「ああ。変に頭が切れてね、私はいつもオストに助けられていたよ」

 だから私が大人ぶっていても変に思われなかったのだろうか。
 同級生が近くにいれば、私の子供らしさが不自然なことなど早々に気付くに違いない。しかし、そんな私を変だと思わず(もしかしたら変だと思ってたかもしれないけど)傍で見守ってくれていたのだ。本当に頭が上がらない。

「私は、お世話になっている伯父さんに──『ガル・ヴィオク』に、迷惑をかけたくないのです」
「……迷惑だと思わなくてもかい?」
「そうだとしても、私が私を許せません」
「ふふ、頑固だね」

 伯父さんは笑って、くしゃくしゃになってしまった書類を机に置くと席を立つ。そして私の傍まで来ると、しゃがんで私と視線をあわせた。

「オストの代わりになればと思っていたけど、私では頼りなかったかな」
「いいえ。でも、何も知らないまま守られるのは嫌です。これは私の我が儘です」
「……そうか」

 伯父と伯母に感謝こそすれ、恨みなど一つもない。私が子供で、何の力もない存在なのは事実であり、守られる立場であることは重々承知である。それを良しとしない私自身が駄目なことなど、私が一番よく知っている。
 歯向かう力もないくせに守られるのを嫌がる──うわ、クソめんどくさい奴じゃん。大人しく守られてたほうがよかった? いや、でもなぁ──……。

「全部答えてあげたいところだけど、あまり時間もない。だから3個だけ、一問一答形式で答えよう」
「3個……わかりました。では、早速」

「まず一つ目。レン・ヴィオク家の家名の保存は一年で、没落するのは本当ですか」
「そうだね。君の存在は公表できないし、このまま行けば『レン・ヴィオク家』は潰える。なんとか潰えないようにと頑張ってはいるんだが、あまり強くも出れなくてね。他の分家の手前、いくら『レン』とは言え特別扱いができない。レヴィーレとの約束に背くことになるかもしれないが、家に戻したいと思っているのは本当だよ」

 ……確かに、あの時伯父は『この家に帰る』とは言ったが、『家名を存続させる』とは言っていない。レン・ヴィオクが潰えたら、あの家は恐らくガル・ヴィオクの管理下になるようにいろいろ手続きや手回しをしているのだろう。家名がなくなって貴族でなくなる私を、どうやってあの家の管理人にするのかはわからないが──まあそこにも何か考えがあるのだろう。
 そういえば、あの時もう一つ私に向けて言っていた気がするが、なんだっただろうか? わからない単語でちょっとスルーしたが……ええと、『私の子供に』……って言ってた気が……? 養子、か?

「二つ目。私が女になって養子に入ったとして、双方の不利益は?」
「……そうだね。まずガル・ヴィオクにとって、だけど。君が前から言っているとおり、王子の花嫁候補として名を連ねられるだろう。このままいけばガヴィーもだね。というか、君たちの年代はほぼそういう扱いになると言っていい。正直ヴィオク家にとって王家と繋がる利点もないし、私としては二人には好きな人と結婚してもらいたいが──母上はそうは思わないだろうね。君は祖母の政治的な駒に成りたくなくともならざるをえないだろう。ガヴィーも。正直、君が女になることで得られる利益はほぼないと言っていい。不利益もほぼないかな。でも……そうだね、君にとっては不利益なことが沢山降りかかるだろうね」

 うっ気になる。その沢山の不利益の中身をすごく聞きたい。聞きたいが──……次に聞くのが最後だ。女を聞いたのだから、次は。

「最後です。私が男になって養子に入ったとして、双方の不利益は?」
「……ガル・ヴィオク家は荒れるだろうね。どんなに君が望んでいなくとも、周りがそれを許さない。私や妻、ガヴァルやガヴィーも君の味方になるだろうが、それ以外は敵になってしまうと言っていい。……そんな感じかな」

 えっ待って気になる! 気になるよ! やっぱり男に成ったほうがいろいろ駄目なんだ!? 女になるよりも酷そうだな!? くそう、詳しく聞きたいのに終わってしまった……!
 私がむずむずしているのがわかったのだろう。伯父は苦笑し、ぽんと右手を私の頭に置くとゆっくりと撫でてくれた。

「多分まだわからないことだらけだろうし、聞きたいこともいっぱいあるだろう。でも、これでも沢山教えている方なんだ。大人の事情や政治的背景なんか、子供の君は考えなくていいんだよ。好きなように決めて、それを大人が出来得る限り手助けする。それが普通なんだ。だから気にしなくていいんだよ。君の決定を、私は全肯定するから」

 ……いやもう出来た大人すぎない? 私が伯父と同じ歳になっても、こんな出来た人間になれる気がしないんだが。
 私は大人しく頭を撫でられたまま考える。

──正直、わからないことだらけだ。

 女に成るより、男に成ったほうが大変なのはわかった。王子の花嫁候補云々に目を瞑ってしまえば、恐らく女のほうが比較的マシなんだろう。しかし、それだとストレスでしんどくなってしまう未来しか見えない。今でもこんなに頭を悩ませて疲れているのに、これにまた悩ませる問題が重なってくればどうなってしまうのだろう。
 でも、男に成ったほうがガル・ヴィオク家にとって不利益になる──いや、荒れる、のか。あれ、不利益になるとは言わなかったな? 不利益にはならないが荒れる、か。祖母が言っていた後継者に担ぎ上げられるだろうというのに当てはまるとすれば、私が後継者になることは不利益ではないということだろうか? むしろ、そちらのほうが利益になる可能性がある……? だから、“不利益”ではなく“荒れる”のか。

 考え込んでいると、そっと両頬を両手で覆われた。目の前に揺れる紫の瞳が私をじっと見つめている。

「レヴィーレ、君が家のことなど心配する必要はない。どんなことが起こっても対応するのが私の仕事だ。だから君には何も知ってほしくなかった。母上にも、会わずに済んでほしかったんだ」
「……いいえ、私は知れてよかったです。何も知らないまま生きるには、いろいろありすぎました」

 改めて考えると、3歳で両親が死んで、伯父のところに引き取られてるんだよな……。あと、これはまあ“私”のせいだが、自分が人間じゃなかったことに気付いた時も結構なショックだったし(あとで判明したけど)、私の存在があまりガル・ヴィオク家に良いものではないということも……純粋な4歳が知ったらどうなるんだろう。前世思い出せてよかった。

「そう、だね……ごめんね」
「伯父さんが謝ることなんて、何もないです」

 むしろ感謝しているのだ。きっと伯父は私を引き取ればどんな面倒ごとになるのかわかった上で引き取ったのだろう。それまでの伯父の発言や行動を考えると、そうとしか思えないことが多々ある。

 いやー、にしてもほんと、こんな4歳児嫌過ぎない? 私ならドン引いてるな。大人みたいなこと言って、子供は砂場で山作って遊んでりゃいいんだよ! って軽く背中を押してやってるかもしれない。
 ガヴァルとガヴィーの勉強時間も30分も過ぎればソワソワしてくるし、普通だとそうなんだろう。それでも私の知る4歳児よりは集中できている方だと思う。まあ私の知る4歳児は“私”の時代の4歳児だけど。
 よく休憩時間に走り回ってるし、昼は昼寝している。かく言う私も昼寝はしているのだが、まあ勉強自体はずっと集中してやっている。時々飽きちゃうけどね。

 時間制限がきたのか、ドアマンが遠慮がちに「そろそろ……」とドアを開けて報告する。伯父は残念そうにため息をついて、最後に私の頭をひと撫でした。

「これを聞いた上で、どうしたいかは君に任せるよ。……私としては、あの手段はなるべくとって欲しくないのだけどね」
「……またじっくり考えて、報告します」

 ぺこりと一礼して、部屋を出る。扉が閉まる直前に見えた彼の表情は暗かった。

 さて。
 細かいことを知るためには、祖母にあわなければいけないだろう。きっともう、伯父は教えてくれない。伯母もきっと、困ったように微笑むだけだろう。
 前に予言された通りになりそうで歯噛みする。知るためには、必要なことか。でも、次会いにいけば──もう、逃げられないかもしれない。
 それでもいいかもと思いつつ、私は少しでも情報を集めるために聞き耳をたてた。




...19/06/10





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