第一章 まずは自己紹介から

10  あのお茶会から二週間。私は未だ伯父さんに聞くことができなかった。
 というのも、実は体調を崩してしまったのである。頭痛がするのは考えすぎのせいだと思っていたが、本当にそのまま熱を出してしまった。絶対これ知恵熱だ。ちくしょう子供の身体が憎いぜ。
 あのまま部屋に帰り、使用人の手伝いを断ってドレスを脱いで髪も外し(前まで手伝ってもらわないと無理だったのだが、どうにか自分でできないか悪戦苦闘してたらするっとできるようになった。いずれ着付けも髪も自分でできるようになりたい)、緩い服に着替えてベッドにダイブしたら起き上がれなくなってしまったのだ。いや~軟弱軟弱。
 私のダウンを聞きつけた伯父と伯母が慌てた様子で私の部屋に突撃してきて、もういい大人が半泣きで謝ってくるからどうしようかと思ったよ。どうやら私一人で祖母の相手を任せてしまったことに責任を感じていたらしく、昼食にも手がつけられなかったらしい。

 いや食べて?

 その後すぐお医者様を呼んでくれたのだが──4日の午後は休日なのに申し訳ない──まあその医者、“私”で言うところの『ヒーラー』でした。要は回復魔法に特化した魔術師? 回復師? かな。
 その回復師も一応診てはくれたのだが、まあ……うん、特に何もできずに帰りました。
 どうやら回復師が回復できるのは外傷だけらしく、内臓などの不調は回復できないらしい。まあ魔法が発展していても、化学や医学が発展しているとは限らないもんね。人体解剖図とかあるんだろうか。うーん、無いに一票。
 薬学というか、なに、薬草? 毒消し草とか? はあるらしくって、そっちが医学っぽい。薬剤師でいいのかな。内臓にはこっちらしい。え、じゃあこっち呼んでくれよと思ってしまった私悪くない。
 まあでも聞けばそんなに正確さはないらしく、まだどの草がどの体調不良に効くか実験中らしい。そんな不確かなものに実子並みに可愛がってる私を診せたくないよね。なるほどね。あとやっぱり神の子なのでそうそう他人に見せられないらしく、回復師は王都の身分保障と秘密保持の契約魔法で縛られているので大丈夫だが、薬剤師はまだ正規の保証がついていないらしい。発展中か~、私が生きている間にいい感じにまとまればいいけど。

 周りが慌てているだけだった状況に、とりあえず私は熱を出した場合の当たり前の措置を指示した。
 氷水で冷やしたタオルを額に置いてくれとか、汗をかいた身体が気持ち悪いから拭いてくれとか。本当は水を飲んだり消化の良いものを食べたりするのもいいんだけど、飲食できないからね。ほんと、じゃあなんで汗かいてるのか不明なんだけど。“私”の常識が通用しない『神の子』。いやはや興味深い。
 そんな私の簡単な当たり前の指示に、不思議そうにその通りに動く使用人たち。──もしかして熱を出した時の対応すら知らない? まじかよ。
 薬学があっても、メインは回復……魔法ね。魔法に頼り切ってるのもなんだかな~という気持ちだ。そうなるとこの世界の死因は外傷系じゃなく内臓系がメインなんだろう。風邪拗らせてそのまま死んじゃうってのもあり得そうだ。

 熱で朦朧としている中、お見舞いに来た双子が左右からベッドに潜り込んできた。つんつんと頬を突かれる。やめろ。

「レヴィーレだいじょうぶ~?」
「ねつ? しんどい?」
「大変だねぇ」
「早くなおしてね」

 むいむいと変形する両頬に、抵抗する気も起きずされるがままになる。
 ガヴァルはその濃厚な紫色の髪を男の子のようにござっぱりと短くし、服装もシャツとサスペンダー付きのズボンと、すっかり男の子のようだ。対してガヴィーは髪を伸ばし、肩を少し過ぎたあたりまで伸びている。今日の服は動きやすい簡単なワンピースだが、勉強中はドレスを着てすっかり女の子のようになっている。

「レヴィーレ~?」
「あれ? ねちゃったのかな」
「でも目ぇ開いてるよ」
「開けたままねてるのかな?」

 昔はあんなにどっちがどっちなのかわからなかったのに、もう完全にわかるようになってしまった。まあ顔は全く一緒なので、カツラとかあれば服を交換すればわからないと思うが。性別を決めれば顔も変わるのだろうか?

「おーい」
「だいじょうぶ~?」

 “私”の常識では一卵性双生児は同性でしかなくて、男女の双子は二卵性で双子でも同じ顔ではないっていう……ええとなんだっけ……遺伝子のアレがあって……。でもこの世界の双子はどうなるんだろう? 見た感じ完璧に一卵性だけど、5歳になって性別が別れたらどうなるんだ……? 一卵性でも男女で同じ顔があり得るのか……?

「やっぱねてるんだよ」
「え~? 目ぇ開けたまま?」
「こわいね」
「ぶきみ~」

 一応親に似てるから遺伝はあると思うんだけど、そういう遺伝子の問題は神の子にどういう影響を与えるんだろう? いや~、世界もそうだけど、そもそも自分のことすら知らないや。
 無力無力。あ~あ……。
 ……。

「……あ」
「目ぇつむったね」
「やっぱさっきまで起きてたのかな」
「でもぜんぜん返事しなかったじゃん」
「ねつだからじゃない?」
「面白くないね」
「はやく元気にな~ぁれ~」
「な~ぁれ~」




 とまあそんな感じで、気付いたら二週間が経っていた。なんと熱は一週間──5日も続いてしまった。前世のインフルでもここまで熱が長引いたことはないぞ? ……ん? これエピソード記憶じゃないか?
 最初は頭が痛かったのに、気付いたら心臓のあたりが痛くなってしんどすぎた。痛いというか、熱いというか……なにかこう、血が逆流するような痛みをずっと感じていた。
 死ぬのこれ? と思いながらぼんやりと過ごしていると、視界の端にちょこちょこガヴァルやガヴィーが見えた。その後直ぐ各自についている使用人が視界に入り消えていったので、勉強を抜け出してここに来たのだろう。私を心配しての行動だろうが、全く困ったものだ。
 そうして原因不明(祖母が原因だと思うけど)の熱が引いても、大事をとって一週間ベッドから出してくれずゴロゴロしていた。
 あまりにも暇でこっそり勉強──前世で言う教科書のようなものを読んでいたら、タリアさんに凄く叱られてしまった。タリアさんが居なくなってまた読んでいたらラグーンさんにも叱られた。そんで没収された。ちくしょう。

 そんなこんなで──あれから二週間が経った。

「完・全・復・活!!」

 思わず両拳を上にあげる。流石に二週間動いていなかったので身体がだるい。今日はとりあえず庭をジョギングして、師匠に稽古をつけてもらってーの男の子コースだな。淑女の日でも暫くはジョギングした方がいい気がする。
 祖母から言われたことを伯父に確認しなければという気持ちもあるが、如何せん日が空いてしまったのでちょっと言いにくい。気にせず聞きに行ってもいいとは思うが、まだ心の整理というか、心の準備ができていないのだ。チキンだ? なんとでも好きに呼ぶがいい。
 軽く柔軟体操をして身体を温め、ジョギングの前準備をする。ラジオ体操第一~、と脳内で曲を流しながら動いているとタリアさんやラグーンさんに変な目で見られるのだが、もしかしてこの世界に柔軟体操というものはないのだろうか? ……ないかもしれない。そうなると完全に変人だ。
 十分に身体が温まったところで、軽く走り出す。
 季節はすっかり冬になっていて、ちらちらと雪が降っていた。まだ大丈夫だとは思うが、もう少し経てば地面を覆い隠す日も近いだろう。“私”の日付感覚で言うと11月末あたりだろうか? この世界の今日の日付は6月第7週1日なので、『6月は梅雨』という当たり前の常識から随分と外れてしまった。

 白くなる息が私の後ろへと揺らいでいく。
 なんとはなしに走り出したものの、これ見つかったら怒られるんじゃないか? 病み上がりの癖に、雪がちらつく外でお供もつけずにジョギングする──あ、駄目だ怒られそう。
 ふっとそんな考えに至り、慌てていつものコースから人目のつかないコースへと足を向ける。
 シャクシャクと軽やかな音をたてて芝生を進み、庭園の端を通って草木が生い茂る裏庭へ。
 遊園地や室内プールなどが作られた広大な庭は、それでもまだ土地を余らせており家(もはや城)の裏には手付かずの自然が残っている。一見森のように見える裏庭にはいろいろな仕掛けが施してあるらしい。見た目は完全な森なのに。
 ほっほっと一定の呼吸をしながら走り回っていると、なんだか家の方が騒がしくなった。

──バレた。

 聞こえてくる声に、どうやら私が部屋にいないことが騒ぎになっているらしい。やばい、やっぱりこっそり出るんじゃなくって一言言ってから出るほうがよかったかも? いやでも言ったら言ったで多分出してもらえないだろうしなぁ……。
 ちなみに今の時間は5時過ぎである。早寝早起きの習慣を身につけられている私の起床時間は基本5時で、ジョギングのために抜け出したのは恐らく4時頃だろう。私を起こしに来たのにいなかったからこんなことになっちゃってるのか。
 本当はバレる前に部屋に戻っている予定だったんだけど仕方ない。というか、ぼーっとしながら走ってたけど、わりと時間経過してたのね。

 致し方あるまい。怒られるか。

 ふっと方向転換し、家へと向かう。
 森を抜け、いつも剣の稽古をつけてもらっている広場に足を踏み入れた途端、──私はその場に転がった。

「!」

 ごろごろと転がって元居た場所を離れ、足を引いて体制を整え飛び起きる。
 ちらちらと舞う雪の白さの向こうに見えた剣と彼に──私は声をあげた。

「師匠!」
「やあレヴィーレ、元気そうですね」

 そう言って朗らかに笑うのは師匠──レオルドさんだ。雪の白さに負けないほどの艶やかな白髪と、イタズラが成功した子供のような煌めきを灯す赤茶色の瞳は、まるで野山を駆け回る白うさぎのようだ。……この世界にうさぎっぽい生き物がいるのは図鑑で見たが、果たして私の知るうさぎなのだろうか。

「もう、師匠! 一歩間違えたら私死ぬところでしたよ!」
「あはは、ごめんなさい。でも、レヴィーレなら避けれるって思ってましたから」

 まあそれでも不意打ちを狙ったつもりだったんですけどねと零す彼の右手には、先ほど私に振った抜き身の剣が握られていた。
 不意打ちを狙ったとはいえ、絶対に手加減をしているのがわかるくらいにはわかりやすい剣だった。私が転がって避けたことに驚いていたようだけど、アレ避けないと普通に私の首転がってましたからね? 手加減していたとはいえ容赦なさすぎでしょ?

 師匠はするりと剣を鞘に仕舞うと、転がって汚れてしまった私に近付いてくる。そのまま両脇に手を差し入れ抱え上げられた。
 師匠は確か、今年で15歳だった筈。前世で言うところの中学三年生だが、この世界では既に大人として扱われているらしい。正しくは14歳から大人扱いらしいので、“人間に成って”から9年で大人扱いってどうなんだ? いいのか? うーん、平和な日本で暮らしてきたからかちょっと理解しにくい。中学三年生は、私の中ではまだ子供なのだ。
 しかし師匠は強い。『ガル』の剣の家庭教師にとされるくらいには実力があった。詳しい個人情報は知らないが、使用人の噂話によると王城の一番隊に属しているらしい。そんな人が家庭教師とかいいんですか? っていうかそんなに強いんですか師匠、若いのに凄いですねと言いたかったが、私はこの情報を知らない設定のため普通に凄い凄いと褒めるしかない。
 10歳で軍隊学校みたいなところに入学し、実力でのし上がって一番隊に入団したそう。それでここに家庭教師として週に一度派遣されているので、まあ新人の業務の内なのだろうか。

「暫く顔を見なかったから心配しました。熱が出ていたようですが、もう大丈夫ですか?」

 赤茶の瞳に心配の色を乗せ、困ったように眉を下げる。そういえば二週間顔をあわせなかった。いや、祖母の突撃で稽古が潰れていたから、丸四週間顔をあわせていなかったことになる。

「心配かけました、もうすっかり元気です!」
「そうですか、それは良かったです」

 両手を握り締めふんすと宣言すると、師匠はにっこりと笑って──私を抱き上げた手に力を込めた。
 あれ、なんかヤバいぞ? と思った時には既に遅く、師匠はぐっと私の身体を持ち下げたかと思うと──

──空に投げた。

「っみゃああああああ!!?」

 そう、それは前世で言う『高い高い』だった。ただ、あまりにも対空時間の長い──ただの『高い高い』ではなく、もはや嫌がらせの──それは、彼の“お仕置き”だった。
 危なげなく落ちてきた私をキャッチして、またリリース。飛ぶ。飛んでる。耳元を過ぎる風の音がやばい。

「病み上がりなのに、どうして早朝にジョギングしてるんでしょうねえ?」
「しょれっ、はっ! し、しょう、がっ! ま、まいあさ、や、れって……!」
「言いましたけど、常識的に考えて病み上がりで走っちゃ駄目でしょう? ああ、ごめんなさい。あなたにはまだ常識がどうなのか知りませんでしたっけ。僕はあなたのことを頭がいいと思っていたのですが、買いかぶりすぎでしたね。すみません。ああ……もしかして熱がある時にも走りました?」
「はひ、って、ないっれすぅ!!」

 にこにこ笑いながら、師匠は何度も私を『高い高い』する。15歳の子供の何処にこんな力があるのか不明だが、問いかけながらもその行動が止まることはない。うっ……なんか気持ち悪くなってきた。

「流石にそれで走りはしなかったのですね。……おや、気分が悪そうですね、大丈夫ですか?」

 やっと『高い高い』が止まったが、その手は未だ私の両脇を掴んだまま。
 はひはひと息をしながら、師匠を見つめる。若干ぼやけて見えるのは、恐らく涙目になっているからだろう。別に高所恐怖症ではないが、三階にも届く距離を投げ飛ばされたら誰でも涙目になると思う。何度もバンジージャンプをやるようなものだ。
 脇下を何度も掴まれたが、師匠は勢いを殺すのが上手いらしく全く痛みは感じない。ありがたい、ありがたいが──そんなありがたみ要らなかった!! すぐ解放して欲しかった!!

「しっ、師匠も……病み上がりの子供にこんな扱い、ひどくないですか?」
「“こんな扱い”をさせたのは誰ですか?」
「……私です」
「今騒ぎが起きているようですが、それは誰のせいですか?」
「…………私です」
「悪いのは誰ですか?」
「………………私、です」
「そうですね」

 にっこり。
 師匠はいい笑顔で頷いて、私を片手で抱えた。荷物のような扱いに文句を言う元気もない。というか、文句など言えない。

──師匠のドSめ。

 言えばまたいい笑顔で投げられるであろう言葉を脳内で呟いて、私はがっくりと項垂れた。

「レヴィーレ!」

 ばたばたと玄関に出迎えてくれたのはラハト伯父さんだった。起き抜けに私が居ないことを聞いて慌てたのだろう、ちょっと寝癖がついていて可愛い。
 小脇に抱えられた私を師匠から受け取ると、ぎゅっと抱きしめてくれた。今まで抱きしめられたことは何度もあるが、ここまで力強く抱きしめられたのは初めてかもしれない。

「よかった……心配したんだよ」
「……ごめんなさい」

 想像以上に伯父さんに心配をかけてしまったようで、心から反省する。玄関ホールには大勢の使用人が集まって、皆ほっと息をついているようだった。あとでちゃんと謝ろう。
 伯父さんは私を抱きしめたまま、顔を師匠へと向け「何があったか教えてくれるかい?」と尋ねた。

「どうやらレヴィーレ様は早朝のジョギングをしていたそうです。身体作りにと指示した私の責任です、申し訳ございません」

 すっとその白い頭が下がったのを見て、私は慌てた。
 確かに毎朝ジョギングするようにと言われたのは確かだ。しかし、私はその前から散歩を日課にしていた。毎朝ではないが、皆が朝食をとっている時間が暇で許可をとって走っていたこともある。
 師匠も今日のこの私の失態は私の責任なことはわかっている。が、それを言わずに自分の責任だと言っているのだ。

「ち、違います! 師匠のせいではありません! 私がどうしても、暫く運動をしていませんでしたから身体を動かしたくてつい! 師匠は悪くないんです! なんの言伝もせず出た私が悪いんです!」
「……」
「レヴィーレ……」

 じっとその赤茶の瞳が私を見ているのを感じながら、私は必死に伯父に言い募った。
 これのせいで師匠が家庭教師から外れたりしたら、ガヴァルに何て言えばいいかわからない。ああでも、もし師匠が家庭教師をしたくないのであれば口添えをした方がいいのだろうか。
 伯父さんはそんな私を困ったように見つめ、それから師匠の方を見た。

「今の話は本当かい?」
「……私の指示も本当です」
「ということは本当なんだね」

 ふうと息をついて、伯父さんはまた困ったように私を見つめ微笑んだ。どうやら師匠にお咎めはないらしい。
 そうして私の頭をそっと撫でて、「とても心配したよ」と言葉を続ける。

「起きて、レヴィーレが居ないと聞いた時は心臓が止まるかと思ったよ」
「……すみません」
「最近いろんなことがあったばかりだから、まさかと悪い方にも考えてしまってね。……私もまだまだだな」

 祖母との突撃、二度目の遭遇、熱で一週間寝込み、からの行方不明騒ぎ。そりゃ伯父さんも悪いほうに考えちゃうよね。
 私はますます縮こまりながら、ごめんなさいと呟いた。迷惑かけたくないと思っているのに、こうして迷惑をかけてしまっているのが情けない。

「ほら、随分冷えてしまっているからお風呂に行っておいで。レオルドくんも早朝からありがとう。すまないね」
「わかりました」
「いえ、これも務めですので」

 そっと床に降ろされた途端、使用人がふかふかのバスタオルで私を包む。紺色のふかふかなそれに埋もれたまま玄関を後にしようと足を出して、ちらりと師匠を見た。
 真っ白な彼をよく見ると、耳と鼻、頬が真っ赤だった。外にいる時は気付かなかったから、中の温かさに血行がよくなったのだろう。ということは、頬や耳が赤くなる時間以上に外に居たということだ。
 確かに今日は剣の稽古の日だ。いつもならその開始時間は昼過ぎか昼前で、師匠は早くても9時過ぎくらいに来ていた──にもかかわらず。

──なんで今日はこんなに早くに来たんだろう?

 冬前で日の出が随分遅いとは言え、秋でも日が出てきたかなというくらいの早い時間だ。今までこんなに早い時間に師匠を見ることがなかったため違和感を感じる。
 本当は師匠に質問をしたかったが、使用人たちから急かされてその場で質問をすることは叶わなかった。玄関ホールを出る前にバスタオルの隙間からちらりと見えた師匠は、伯父さんと話しているようだった。その顔は若干いつもより険しく感じる。
 ともかく、再度熱を出しては叶わないと私は風呂へと急ぐのだった。




...19/06/07





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